今夏、アジアで初めて国際分析心理学会の大会が京都で開催されることになりました。
国際分析心理学会とは、世界のユング派分析家約3000人が所属する学会で、
日本で初めてユング派分析家の資格を取得した河合隼雄も所属していた団体です。
当財団の代表理事でもある河合俊雄が中心となり、京都へこの大会を招聘し、
8月28日~9月2日の1週間、600人を超える参加者を迎えて京都国際会館にて行われました。
その中のメインイベントのひとつとして、国際的に活躍される指揮者の佐渡裕さんをお迎えし
河合隼雄との思い出を語っていただく会が開かれました。
当日、佐渡さんとスーパーキッズ・オーケストラのみなさんが
毎日放送「ちちんぷいぷい」に出演されたこともあり、
急遽、会場へ足を運んで下さった方もたくさん。
日本語と英語によるトークが1時間にわたって繰り広げられ、
その後、佐渡さん指揮によるスーパーキッズ・オーケストラのミニコンサートが行われました。
佐渡さんと河合隼雄との出会いは、河合隼雄が音楽専門誌「The Flute」の中でもっていた対談コーナー
「アンサンブル・ハヤオ」での対談であったと言います。
(この対談についての記事はこちら)
この対談では佐渡さんがどんどんとお話しされ、
河合隼雄の方は「ああ」「うん」「へぇ」「ほうほう」と言っているだけ!
これが「対談」か!という感じなのですが、文字だけを見ていても
なんだかどちらも楽しそうに見える不思議な対談コーナーでした。
その後も公私にわたって交流のあった佐渡さんと河合隼雄。
河合隼雄との特別な思い出を尋ねられた佐渡さんは、
河合隼雄が本当に音楽が好きだったことを思い出すと語られました。
よく演奏会にも足を運んだようで、佐渡さんが客席に目を向けると多くのお客さんが拍手をしてくれている中、
河合隼雄が頭の上で手をたたいていて、
まるでそこだけにスポットライトが当たっているように見えたのだそうです。
今でも河合隼雄と撮った写真を楽屋に置き、指揮台に向かって手を合わせると語った佐渡さん。
河合隼雄が亡くなってから、東日本大震災や最近では熊本の震災など、河合隼雄に相談したいことがたくさん起こり
また、佐渡さんご自身の立場もさまざまに変わり、
亡くなってからの方がたくさん対話をしているかもしれない、と語られます。
これに対して河合俊雄はユングの理論をあげながら
亡くなった人の意識はそこでとまってしまう。
だからこそ、亡くなった人に対して、今、自分がこんなことをしているということを教えてあげる。
亡くなってからの方が河合隼雄とたくさん対話していると話す人は、実はとても多いのだと応じます。
佐渡さんはとてつもないプレッシャーから、自分がとても醜く思えるような夢を
たくさん見ていたとのこと。
それを河合隼雄に相談すると、それは佐渡さんの指揮者としての人生がうまくいっているということだ、
よくないことはすべて夢の中で起こっているのだと話したとのだといいます。
佐渡さんの『棒を振る人生』(PHP新書)に収録されている夢の話があります。
詳しくは本書に譲りますが、
佐渡さんの子ども時代の個人的な体験と西洋の音楽を理解するというそのときの課題とを
夢を通じて同時的に解決したエピソードが収められています。
この話は、ラグビー元日本代表の平尾誠二さんと河合隼雄との鼎談の舞台上でなされたものですが
河合隼雄はそこで、「僕はこの夢を分析した方がいいのだろうけど」と述べてから、顔を覆って号泣したといいます。
「その瞬間が、河合先生と僕が最も深くつながった瞬間だったと思います」
と佐渡さんは言いました。
佐渡さんは夢に助けられることが多いようで、
とてもハードな指揮のコンクールの課題曲、知っている曲だと思い込んでいたら、
夢によって、違う曲だと教えられたとのこと。
目が覚めて調べてみると、確かにそのとき新たに編曲された楽譜だということがわかり、慌てて勉強を始めたのだそうです。
課題曲は抽選で割り当てられるので、結局その曲を演奏せずに済んだのだそうですが、
佐渡さんの夢とのつながり方は、まるで日本の中世の物語のようですね。
河合隼雄との最後に会ったのはパリでの会食。
物事を決断するのはとても難しい、という話を佐渡さんがふると、
100人いて51VS49で51を選ぶのがリーダーというわけでもない、51を選んでも49はそう思っていなかったことを忘れてはいけない、などなど・・・
「答え」ともつかない話になって
「なんともいえない会話の中で、今考えるとすごい重要な話をしたと思う」と佐渡さんは語られました。
1時間のトークはあっという間に終わり、その後は佐渡さんの指揮によるスーパーキッズ・オーケストラのミニコンサート。
このオーケストラは小学生から高校生まで、厳しいオーディションを通過して
全国から集まった高い技術をもつ子どもたちによって編成されています、
佐渡さんの気迫あふれる指揮による演奏は、技術を超えて、自由で熱く感動的なものでした。
佐渡さんは言いました。
- このオーケストラは、自分たちと若い世代がつながっていることの意味、
教育的なことを考えて始まったものでもありました。
でも、今では僕がこのオーケストラのファンなのです。-
自分たちで考えているのだという振り付けつきの曲も楽しく、
集まった観客もまた、スーパーキッズ・オーケストラの大ファンになってしまったと思います。
佐渡さん、スーパーキッズ・オーケストラの皆さん、
夏休みもないほどのお忙しさの中、
京都に来て下さってありがとうございました。
河合隼雄もものすごーく喜んで、
我々では考えもつかないようなくだらない冗談を言いながら聞いていたことでしょう。
そして、今後のますますのご活躍、河合隼雄はきっと頭の上で拍手をしながらずっとどこかから見ていることと思います。