2017年7月14 日(金)、祇園祭で賑わう京都市内にて

第五回河合隼雄物語賞・学芸賞授賞式・授賞パーティーが開催されました。

 

 

 

今年の河合隼雄物語賞は、今村夏子さんの『あひる』(書肆侃侃房)でした。

 

正賞の日の丸盆と副賞の授与の後、

選考委員を代表して、小川洋子さんからの選評がありました。

 

 

はじめの方で、

“選考委員はこの賞創設以来ずっと「物語」とは何かということと格闘してきたが、

これが物語だというのは選んでこなかった”と言われたことは

ある意味で衝撃的だったように思います。

「物語賞」でありながら、

むしろ物語の概念を壊す作品が選ばれてきたということなのかもしれません。

 

今回の授賞作『あひる』の特徴は

肝心のことが書かれていないこと。

しかし書かれていないものが力を持ち、

言葉を持たないところへアプローチしているということが、

この作品のすぐれているところではないか、とも話され

物語とは何か、文学とは何か、そして言葉とは何かということに

一石を投じるようなスピーチであったように思います。

 

続いては今村夏子さんの受賞スピーチです。

この作品には、あひるはいなかったものの、

今村さんのおじいさまの家がモデルになっていたことが明らかにされました。

祖父と祖母と三人でその家にいることを思い描きながら、この作品を書かれたそうです。

 

 

自分の楽しみのために書いてくださいと言われてこの作品を書き、

今後も自分の楽しみのため、この賞に恥じない作品を書いていきたいという、

清新な印象を与えるスピーチでした。

 

      ◇  ◇  ◇

 

河合隼雄学芸賞は、釈徹宗さんの『落語に花咲く仏教:宗教と芸能は共振する』(朝日選書)でした。

 

選考委員を代表して、中沢新一さんが選評を行いました。

 

河合隼雄は仏教が好きだった、

けれどもお坊さんは嫌いだった

のっけから、住職でもある受賞者を前にしてドキリとさせる話です。

 

中沢さんは、釈さんに最初に会ったときから落語の話で盛り上がり、

勘違いして、釈さんは落語家だと言いふらして迷惑をかけたとのこと、

会場は大笑いです。

 

 

「維摩経」が、在家の維摩に小乗仏教の高僧がこてんぱんに言い負かされる話から成り立っているように、

大乗仏教は悪口でできているところがあるけれども、

そのうちにそれ自身を批判し始めるのだそうです。

 

批判精神は仏教の本質であると日本の庶民は見抜いていたのではないか、

その精神が笑いとして落語に流れ着いていく、

世界中の宗教が、自分が一番と言い過ぎて力を失いつつある現代において、

仏教はそう言わず、

それが笑いの精神として落語になり、自分の足元まで突き崩している。

 

この授賞作は、仏教史、芸能史だけでなく、

今の宗教に対する批判もこめた好著である

と、最後は格調高く締めくくられました。

 

 

これを受けての釈徹宗さんの受賞スピーチは

中沢新一さんは勘違いでなくて、

意図的に釈さんが落語家であるというデマを流していたという反撃ではじまり、

また会場が沸きました。

しかしそれ以後は、まわりへの感謝と気遣いに満ちたお人柄がしみじみと伝わってくるお話でした。

 

芸能のなかには宗教性が潜んでいる、

芸能のコアにある宗教性に自覚的でなければ持続可能性はない。

また逆に宗教のなかにも躍動する芸能性がある。

東アジアの仏教の二大特徴として、音楽性と語りがあるが

宗教は、信じる者と信じない者の境界を作るのに対して

音楽、芸能はその境界を超える。

宗教が収斂するのに対して、芸能は拡散させ、揺さぶる。

 

その2つがかみ合う豊かさを描き出したいと思い、

授賞作を書かれたとのこと。

とても素敵な自著の解説でした。

 

 

奇しくも芸能や音楽を強調した授賞作とスピーチとなりましたが、

音楽をこよなく愛した河合隼雄にちなんで、

毎年恒例のミニコンサートも行われました。

 

今年は、河合隼雄がエラノス会議で講演するために訪れた

スイス南部のイタリア語地域で出会った

山下泰資さんによるチェロの演奏でした。

山下さんは代表理事とも親交のある方です。

 

 

バッハに始まり、2曲目はドビュッシー。

こちらは河合隼雄を偲んでフルートの曲がチェロで演奏されました。

最後には日本的で、かつ現代曲でもある「文楽」で締めくくられました。

 

 

また、今年の乾杯の音頭は、元NHKディレクターの立元幸治さんに務めていただきました。

立元さんは1970年代に河合隼雄と出会い、

その後、NHKの様々な番組に河合隼雄を引っ張った立役者ともいえる方です。

 

 

 

河合隼雄物語賞・学芸賞もおかげさまで第5回。

没後10年を数日後に控えた授賞式は、

100名を超える参加者を集め、たいへんな盛況のうちに幕を閉じました。

 

今村さん、釈さん、本当におめでとうございます!!