連日の大雨の影響で、いまなお様々な災害に遭遇されておられる方々につきましては、
一刻もはやい復旧をお祈り申し上げます。
2018年7月6 日(金)第六回河合隼雄物語賞・学芸賞授賞式・授賞パーティーが開催されました。
京都市内は、大雨により、交通機関が大幅に乱れ、
鴨川は、いつもの穏やかな様子からは想像ができないくらい、うねり渦巻く激流と化しておりました。
当初の予定より、10分遅れて開会の辞となりましたが、
まだ物語賞の受賞者である松家さんがご到着されておらず、
プログラムを変更して、学芸賞からの授与となりました。
今年の河合隼雄学芸賞は、
鶴岡真弓さんの『ケルト再生の思想―ハロウィンからの生命循環』(筑摩書房)でした。
正賞の日の丸盆と副賞の授与の後、
選考委員を代表して、岩宮恵子さんからの選評がありました。
今回の学芸賞の選考にあたっては、審査員全員一致だったとの第一声に、
思わず、それほど学芸賞にふさわしい作品にめぐり合うことができたのか、という印象でした。
作品内容は、19歳の時からケルトの研究をされていた鶴岡さんが、
今までの研究をもとに、ケルト文化の中にある、ハロウィン=サヴィンを軸に、
4つの四季のお祭りの中にある文明思想を紐解き、
古代ヨーロッパの精霊を現代へよみがえらせる、という内容のものです。
生死の枠が取り払われ、
死者からのエネルギーをもらい、
そこから再生をする、ということが、
河合隼雄のやっていた心理療法とつながるところであり、
隼雄自身がケルトに関心をもっていたのが、
まさにそこではないか、
この作品こそ、学芸賞の神髄なのではないか、
というのが満場一致の理由だということです。
岩宮さん自身も、選考に臨む前から本書をご存じで、
そのエピソードを交え、ケルトを知らなくても、なじみがなくても、
「こころの再生に、深く響いていくことができる作品」だということを感じていたそうです。
人間の生活の中にあるものと、ケルトのつながりを発見させてもらえたとのことでした。
続いて、鶴岡真弓さんの授賞スピーチです。
初めに、スピーチ時間は5分で、と言われていたので、
前日に、どうにか5分に縮める原稿をやっと作ってきたのですが、
本日まだ物語賞の松家さんがご到着されていないとうことで、
つなぐために、長めにお話しください、と言われました、
と仰られ、会場は笑いの渦に包まれました。
実際に、それから本当に20分間、独演頂くことになり、
会場はすっかり、鶴岡さんの世界に染まりました。
京都での大学勤務時のお話、河合隼雄先生との出会いのお話し、
ケルトの精霊、再生、循環を絡めての先日のベルギーVS日本のサッカー戦のお話しなどなど、、、、
今月より、放送されているNHK放送の100分de名著「河合隼雄スペシャル」もご覧いただいており、
その中で、河合隼雄の「影の創造性」をとりあげ、
「エネルギーは反転して自我へ流れ込み始め、
再び力を得た自我はあたらしい統合の道を、
現実との関わりの中で、固めていくことになる。」
という隼雄先生のお言葉に、
ケルト啓蒙文化の人達は、ずっと影の中で生活してきた歴史の背景の中、
精霊やスピリットに通じるこころや、夢、無意識の世界を紡ぎだしてきた。
しかし、それは歴史的に見ても追い詰められたリアリティーがあり、その中から生まれてきた。
リアリティーの中で生きているからこそ、もっとも夢をみられるのではないか。
ということを重ねて述べられたのが印象的でした。
また、隼雄先生も感じていたかもしれない、ケルト文化の中に、日本と通じるものがあること。
私も、日本人として、ケルトを研究している中で、
ケルト最西端部でのリアルな営み、芸術や思想と、
祇園祭や、唐紙模様などをはじめ、日本の文明に沸き立って消えない、
「散る桜」を生命だと感じる、「生命循環的にみる」リアリストのいるこの国が、
あわせ鏡のように見えて、根源を確かめたいと思って、
日本人論としてケルト論をやってきたところもある、と語っていただきました。
◇ ◇ ◇
19時になり、無事、松家さんもご到着され、
物語賞の授与がはじまりました。
今年の物語賞は、松家仁之さんの『光の犬』(新潮社)でした。
選考委員を代表して、小川洋子さんが選評を述べられました。
はやくも第6回を迎えることになり、
物語賞の色合いがみえてくるのではないかと思っておりましたが、
回数を重ねるごとに、物語ってなに?という問いが深まっているような、
それと同時に、自分にとって物語ってなに?
なぜ小説を書いているの?と自分につきつけられているような、
緊張感に満ちた選考になっているとのことです。
「光の犬」は、北海道に移り住んだ、ある一族3代のお話しです。
薄荷工場で働いているおじいさん、助産師さんとして自立しているおばあさん、
その子ども4人、さらにその下の世代の子ども。
代々彼らととも暮らした北海道犬。
はたから見れば、ごく平凡な家族の中に、
病、死、別れ、葛藤、、、がある。
ただ、松家さんは、それをとても心静かな筆で描写しています。
人の死も、犬の死も、おなじ熱量で書く。
物語的にストーリーを盛り上げようとする意図がまったくない。
むしろ、物語から遠ざかろうとしている。
にもかかわらず、思いもしないところから物語が湧き出ている。
鶴岡さんもおっしゃっていた、みんなが忘れていた泉から自然に物語が湧き出ているような
そういうところがすばらしいな、と思いました。
星座は、人間が下から見上げた星を一つづつ線で結んでつないだもの。
本来、星というのは、ひとつひとつで輝いている。決して結ばれてはいない。
でもだからこそ美しい。
それと同じように、松家さんが描く登場人物たちも、
みんなひとりひとり、生まれて、生きて、死ぬ。
そのことが尊く、それこそが物語である、
ということを証明しているような小説で、
河合隼雄先生がおっしゃっていることと通じるなと思いました。
今年もまた、物語賞にあらたな光を差し込んでくれる作品と出会えて嬉しく思います。
とのご講評を頂きました。
次は、いよいよ、松家さんのスピーチです。
この日のために、挨拶の原稿をご用意いただいたとのこと、
松家さんのご許可を頂きましたので、全文を掲載させていただきます。
新幹線の大幅な遅延があり、お越しいただけるか本当に心配しておりましたが、
ご登壇いただき、スピーチ頂けまして、本当にありがとうございました。
前半では、ミニコンサートも開催されました。
今回は、園城三花さんをお招きし、前田扇さんのピアノ伴奏でフルートを演奏頂きました。
園城さんは、以前、河合隼雄と共演のご予定をされておりましたが、
残念ながらその機会に恵まれませんでした。
その思いも込め、「アンソロジー 河合隼雄先生を偲んで」というタイトルのもと、
河合隼雄の好きだった3曲を選曲いただき、演奏いただきました。
1曲目は、ドビュッシー、2曲目は、オペラ『魔笛』より、5曲を組んで演奏いただきました。
3曲目の、グルック 『精霊の踊り』では、演奏をしながら会場をめぐっていただき、
フルートの優しい音色を、身近に感じることができ、大変嬉しい演出に感動いたしました。
今年の乾杯の音頭は、新潮社代表取締役の佐藤隆信さんに務めていただきました。
河合隼雄物語賞・学芸賞の開催をはじめ、河合隼雄財団としても、
多大なるお力添えを頂いております。
ありがとうございます。
雨男で有名な河合隼雄ですが、生誕90周年ということもあり、
今回はとくに、その力が増していたのでしょうか、、、。
そのおかげかもしれませんが、波瀾万丈あった分、
大変、内容の濃い、盛大な授賞式・授賞パーティーになりました。
本当に足元の悪い中、
ゴールにたどり着くようにご来場頂きました関係者の皆様、
ならびに、ご協力頂きました皆様に感謝申し上げます。
ありがとうございました。
松家さん、鶴岡さん、本当におめでとうございました!