『宗教と科学の接点』は、雑誌『世界』1985年7月号より6回にわたり連載されたものをもとに、
1986年5月に岩波書店より単行本として刊行されたものです。
以来35年の時を経て、今回の文庫化にあたり、
新たに『対話の条件』(『岩波講座 宗教と科学1』1992年)と、
河合俊雄代表理事による解説「たましいから物語へ」が加えられました。
1985-86年の連載時、「宗教と科学」という大きな難題を取り上げるにあたり、
河合は、宗教学者でも自然科学者でも哲学者でもない自分は、
「まさに宗教と科学の接点のあたりを右往左往せざるを得ない、心理療法家として」、
自分の経験を通じて学び考えたことをもとにして発言していると述べています。
つまり、それらを専門とする特別な人々の領域で取り上げられるだけではなく、
今を生きるわれわれが真剣に生きようとすれば、
宗教と科学の接点の問題は否応なく立ち上がってくるものであり、
そこに多くの人がコミットしていくことが必要だと指摘します。
河合隼雄は心理療法家として、常にこのような、
隔たった対立するものの「境界」や「接点」の問題に心を寄せ続けました。
本書は、
第1章「たましいについて」、第2章「共時性について」、
第3章「死について」、第4章「意識について」、
第5章「自然について」、 第6章「心理療法について」から成っています。
これら難解で永遠のテーマについて、ユングの思想をベースに、
河合のリアリティのある経験に根ざした視点から向き合い、
そしてそこで立ち上がってくる問題は、
その普遍性によって現在にも通じるものとなっています。
新しく加わった河合俊雄代表理事の解説では、
本書の「自然について」「心理療法について」といった後半の章は、
全く古びていないことを感じさせてくれるといいます。
また、2021年の現在、世界が抱えている問題――環境問題、持続可能性、
自然との共生、新型コロナウィルスによるパンデミックなど――に直面し、
宗教と科学の接点の必要性はますます強まっていることを指摘しています。
この機会にぜひ、この今の日常や社会に今ある問題を前にして
「右往左往せざるを得ない」わたしたちがどう向き合うべきか、
そのヒントが見つかるかもしれません。
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