河合隼雄(河合俊雄編)『神話と日本人の心』が岩波現代文庫より発刊となりました。
本書は河合隼雄がその中心的な研究テーマであった神話に正面から取り組んだものであり、
「主著」と言ってもよい著作のひとつです。
このたび、〈物語と日本人の心〉コレクションⅢとして初めて文庫化されることになりました。
解説は河合隼雄学芸賞選考委員でもある中沢新一さんです。
河合隼雄は第二次世界大戦の経験から、日本神話を好んではいませんでした。
しかし、欧米に憧れてアメリカからスイスへ渡り、奇しくもそこで日本の価値を発見することになるのです。
日本で初めてのユング派分析家資格を取得するために提出した論文も日本神話を扱っています。
(『日本神話と心の構造』https://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0242660/)
「自分が日本人だということなんて、全く意識していないよ」という人であっても、
一歩外国に踏み出せば、その文化の違いに驚き、自らの「日本人らしさ」を発見するものです。
神話も同様に、忙しい日常の中ではあまり意識にのぼってくるものではありませんが、
実は私たちの心を基底から支えているものと言えるのではないでしょうか。
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近代の政治的神話は、硬直したイデオロギーを権威づけるために利用されることが多い。
しかし未開社会や古代社会でじっさいに語られていた神話は、それとは正反対の性格をしめす。
一つの価値観だけで世界が成り立っているという考えをとらず、神話はいくつもの価値観や意味がせめぎあいながら、
かろうじて均衡を保っているのが、じつは世界の実相であることをしめそうとする。
(中略)
河合隼雄はこういう「生きた神話」のほんとうの姿を知るにおよんで、目を開かれる思いがした。
(中略)
じっさい日本神話では、父性原理と母性原理が対立していない。それどころか神々はそのつど自分のポジションを
変化させて、あるときは父性原理的に行動し、またあるときは母性原理側に近づいた行動をすることで、
二つの原理を交錯させながら、全体の均衡を保とうとしているように見える。
(中沢新一 「解説 日本神話にみる三元論の思考」より引用)
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八百万(やおよろず)の神々の中で特別な地位にあるアマテラスは女性神です。
これは世界の神話をみても「相当に特異」なことだそうです。
女性を最高神とする日本の神話は、男性神を中心とする一神教的な世界とは異なる秩序を示してくれます。
神話という壮大な物語のなかから見えてくる日本人のこころとは?
この大きな問いに河合隼雄なりに取り組んだ仕事がこの一冊に凝縮されています。
神話になじみのない読者でもついていけるような構成になっています。
読書の秋にぜひお手にとってみてください。