〈物語と日本人の心〉コレクションも5冊目となります。

「昔話と現代」が2月16日、岩波現代文庫より発刊となりました。

この本は、『生と死の接点』(岩波書店)に収録されていた

「日本人の美意識」や「グリムの昔話における「殺害」について」、

雑誌「日本研究」に発表されていた「『風土記』と昔話」などからなる10章から構成されています。

 

また、「猫、その深層世界」や「境界体験を物語るー村上春樹『海辺のカフカ』を読む」など

読み物的な論考が収録されているのも魅力ですね。

 

解説を書かれたのは臨床心理学者の岩宮恵子さん。

 

解説「「かなしみ」によって結ばれるもの」では、昨年大きな話題となった新海誠監督「君の名は。」の

映画についても触れられています。

 

岩宮さんはその鋭い臨床感覚からこの映画の魅力を

「特に思春期の人たちが何度も見たと報告する様子からは、

もっと全体的な「世界の関係性」に反応しているのをヒシヒシと感じる。

その「世界」には、自分の見た夢や昔からの言い伝えも重要なものとして含まれている。

このような世界との関係性のなかに自分は生きているのだという感覚が

とても深く心を動かしていることが伝わってくる」

と分析しています。

 

この作品は「男女が夢のなかで入れ替わるなど「とりかえばや」のようでもあり、

すでに忘れ去られた古代の智恵が、実は現代を生きる人たちにどれほど大きな意味をもっていたのか・・・・・・という話でもあり、

まさに、昔話の世界と現代を結ぶような内容」であるというのです。

 

そして、「君の名は。」のように、現代の私たちと昔話の通路を具体的なお話を通して

明らかに示してくれるのがこの本だと岩宮さんは解説しています。

 

すぐれた物語は、

ストーリーを知っているのに何度も読んだりきいたりしたくなるものです。

そのような気持ちを引き起こす秘密が、この本には書かれているのかもしれません。

 

グリム童話から浦島太郎のような日本の昔話、風土記から村上春樹まで

扱われる物語は多種多様ですが、

それらを読んでいると、物語がもつパワーと魅力が立ち上がってくるようにも思われます。

 

装丁がかわいいのも密かなオススメポイントです。