岩波現代文庫 〈物語と日本人の心〉コレクションの6冊目が刊行されました。
「定本 昔話と日本人の心」
今回はちょっとイケメン(?)の浦島太郎さんが目印です。
本書は、1982年に刊行された『昔話と日本人の心』の定本となるものです。
著作集収録時のリード文であった 序説「国際化の時代と日本人の心」も収録されており、
文庫にしてはどっしりと厚みがある本になっています。
前回の文庫化にあたっての鶴見俊輔さんの解説を再掲すると共に、今回は編者・河合俊雄が解説を書いています。
編者解説にもあるように、本作は大佛次郎賞を受賞した著作であり河合隼雄の代表作のひとつと言えます。
実際のところ、財団広報室に河合隼雄の作品に対するおほめの言葉をいただくことがあるのですが
この本に対するものが一番多いかもしれません。
日本の昔話を題材に、河合隼雄独自の心理学的な読みを示し、
日本人の心を論じていくこの本は
ひとつひとつの物語を通じて、私たちを心の深みへといざなってくれます。
しかし財団へと届けられる読者の声をみていると
この本は日本文化論としての学術的な価値をもつだけではないようです。
この本によって自分のことが理解できたように感じたり、
自分の心の弱みや強みについて考えさせられたりしたという方も多いようで
意外でもあるのですが、何か私たちの心にすっと何かを収めてくれる力があるのかとも思えます。
鶴見さんの解説は例外的に再録されたものですが、それはこの解説が一読の価値があるためです。
「敗戦後の五十年を、全体として見ることができるところまで来た」として
その中で河合隼雄の仕事を、「きく力の復活に傾倒したもの」と評し
全体の流れを逆行するものだと論じています。
不安定な時代が続いているように思われますが
だからこそ、昔話が私たちに与えてくれる知恵に
いま一度耳を傾けてみる意味があるのかもしれません。
本書は専門書のひとつの数えられるものと思われますが
岩波現代文庫は紙も印刷もきれいで読みやすいので
河合隼雄の一般向け著作の読者の方にも手にとっていただきやすいのではないかと思います。