1993年に朝日新聞社より単行本として刊行され、その後1996年に朝日文芸文庫より、
養老孟司さんの巻末エッセイが加わって文庫本化された『中年クライシス』。
以来、およそ四半世紀を経て、『中年危機』とタイトルを改めて、朝日文庫より
このたび発刊されました。
この新刊には、河合俊雄代表理事が解説が新しく加わって、さらに読み応えのあるものと
なっています。
本書は河合隼雄が、夏目漱石、大江健三郎、佐藤愛子、山田太一などの日本文学の名作12編を
読み解き、これらの文学作品に登場する中年期の主人公たちの心の深層を探究していきます。
それは、河合隼雄自身が「はじめに」で述べているように、文学作品の解釈でもなく、
深層心理学のテキストに小説を利用したのでもなく、河合隼雄が心理療法の場で
会ってきた方々の体験も込めて、「中年」というものを背景にして文学作品にぶつかって
いった結果生まれてきたものといえます。
このたび改題して発刊にあたり、新しく河合俊雄代表理事による解説が加わりましたが、
この解説にもぜひ注目していただきたいと思います。
河合隼雄が臨床家として多くの苦闘につき合ってきた謎をめぐる格闘の解き明かしの迫力や
「ハッとさせられるもの」の数々を改めて取り上げられ、
さらには、その後、河合隼雄と村上春樹との出会い、
『村上春樹、河合隼雄に会いに行く』(新潮文庫)につながっていきますが、
河合隼雄の本書『中年危機』が、河合隼雄の思索や日本人のこころの変遷において、
どのような位置づけになっているのかを確認できるものとなっています。
『ツレがうつになりまして』の細川貂々さんによるカバー装画も、本書に新しい魅力を
添えてくださっています。