このたび、河合隼雄『中空構造日本の深層』が増補新版の形で、

中公文庫からから出版されました!

 

『中空構造日本の深層』は、1982年に中公叢書から最初に発刊され、

1999年に中公文庫で文庫化されました。

(旧版文庫の解説は神話学者の吉田敦彦さん)

 

本書は、その文庫旧版に、

「日本神話にみる意思決定」(『河合隼雄著作集』第2期第6巻所収)と、

吉田敦彦さんと河合隼雄との対談「神話と日本人」を増補したものです。

 

 

そして今回の増補新版に新たに寄せた、

河合俊雄代表理事による解説「中空構造論の由来と可能性」が、

今本書を読む上での羅針盤の役割を果たしています。

 

本書は日本人の母性優位性に注目して論じた

『母性社会日本の病理』(1976年/中公叢書)から5年を経て、

その間に発表してきたものを一書にまとめたものです。

 

その過程で、河合隼雄が日々の心理療法実践とともに、

日本神話さらには昔話やファンタジーを掘り下げ考えることを通じて、

日本人のこころの「中空構造」を強調する方向へと変化していきました。

その一つの(その時点での)集大成として、本書の叢書版が1982年に発刊されました。

 

本書にあらたに論考と対談が収録されました。

論考「日本神話にみる意思決定」は、

1990年に『季刊アステイオン』(TBSブリタニカ)に寄稿したもの。

吉田敦彦さん×河合隼雄の対談 

「神話と日本人―神話をなくした民族は命をなくす?」は、

1998年に行われたもので、河合隼雄が、

日本神話という日本人の「物語」に軸足を置きつつ、

日本社会の構造の分析を展開していった過程をたどることができます。

 

河合俊雄代表理事による解説にあるように、

河合隼雄がはじめて日本神話の「中空構造」に気づいて指摘できたことには、

河合隼雄が数学出身であったこと、

またチューリッヒでの分析体験や臨床体験があることが重要であり、

河合隼雄の人生(生きざま)との深いところでの結びついていることにあります。

だからこそ本書が、いつの時代でのその普遍性と意義を失わないのでしょう。

 

自分個人の今抱えている問題や課題、

あるいはわれわれの社会が直面している危機や問題について思い巡らす時、

本書が示すものが、何らかの可能性の開けになることを願ってやみません。