石井均『病を引き受けられない人々のケア』が医学書院より発刊されました。

これは、『糖尿病診療マスター』という雑誌の対談コーナーから選りすぐりの10編を集め、まとめられた本です。

2004年10月に行われた河合隼雄との対談が冒頭に収録されています。

 

病を引き受けられない人々のケア

著者の石井均さんは、内分泌と糖尿病が専門の臨床内科医の先生です。

河合隼雄との対談は、石井先生が診療現場に出てはじめに突き当たった問題のお話から始まります。

 

医学部で検査、お薬、病気のことを勉強して診療に出る。

その通りに診断してお薬を投与すれば治るはず・・・ところが、病名を伝えても真剣に考えてくれない患者さんの存在に突き当たる。

「先生、きょう、その薬いらんわ」

石井先生が研修医となって初めての患者さんの言葉は印象的です。

 

病を治療しようとするとき、患者さん自身がどのような構えで病を受けとめ、それと関わろうとするのかを無視することはできない。

でも、薬をいやがる患者さんがいること、そういう患者さんにどう対応すればよいかは医学書には書いていないのです。

この、シンプルだけれども大きな現実に突き当たったという石井先生に河合隼雄も同意します。

 

いまの医学からは、近代科学的にわかっていることを教えてもらえる、

しかし、「生きた人間に会うと、それにプラスαが入ってくる」

「病気ではなくて、人間というものを相手にしなければならないという、大変なことが出てきます」

というのです。

 

こんなふうに考えてくださるお医者さんの存在は、自分を患者側においたとき、

とても心強く感じます。

また、自分を治療者側としてみたときにも、病気を具体的対象として扱うのではなくて、

病を抱える「人」を相手にするのだという姿勢には学ぶべきところが多いでしょう。

 

このような始まりから、この本の発想に引き込まれてしまうのですが、

本書ではここからも養老孟司、北山修、中井久夫、中村桂子・・・となんとも贅沢なラインナップで

対談が続きます。

 

人気対談コーナーから生まれた知恵の結晶をぜひお手にとってみてください。