創元こころ文庫より6冊同時発刊されたものの中から、本日は『カウンセリング考える 上』をご紹介します。
解説は臨床心理学者、島根大学教授の岩宮恵子氏です。
この本は、四天王寺主催 カウンセリング研修講座における講演をまとめたもので、
『カウンセリングを語る(上下)』の続編となっています。
家族、いじめ、不登校、と現在もなお、大きなテーマであり続ける問題が扱われています。
珍しく文章化することを想定して話したものだ、と著者自身、あとがきで述べていますが、
そうはいっても講演録であるがゆえに、親しみやすい語り口で書かれ、読みやすい本でもあります。
しかしながら、この内容はそれほどやさしいものではない、と
岩宮恵子氏は指摘しています。
岩宮恵子氏自身も、ユング派の臨床心理学者や臨床家のなかで(もちろんそれ以外の方にも)人気はとても高く、
何かの研修会で講演があると、本当にたくさんの人が岩宮氏の話を聴きに集まってきます。
それは、話の上手さに加えて、彼女の話が臨床に深く根ざしているからだと思われますが、
その岩宮氏をもってしても、この本に書かれていることを話すのは本当に難しいことなのだそうです。
「語り手としての才能の部分を大幅に差っ引いたとしても、
臨床家としての経験と智慧が血肉になっていない限り、この多層的な意味を含む複雑な内容を他者に伝わるように話せるものではない。
それはここに書かれている内容で話してみようとチャレンジしてみたときに痛感したことだった。
この講演録で河合先生がさらりと語られている話題の裏に、どれほどの臨床経験と苦難と努力と深い思考が存在するのか、
臨床の年数を積み重ねた今だからこそ、じわりと汗がにじむくらいに実感としてよくわかるのである。」
(本書、解説「現代のカウンセリングと「片子」の物語」より)
本書の第5章は、「カウンセラーの責任と資格」です。
ここでは、たとえば、カウンセラー自身の”役に立ちたい”という気持ちをどうすればよいのか、という話が
「役に立て」とも「役に立ちたいなどと思うな」とも言われないままに、
自然に考えさせられるように語られていきます。
カウンセラーだけではなくて、会社員でも教師でも、親として読んでも、
自分の気持ちや心の揺れについて考えさせられるところかもしれません。
押しつけられているわけではないのに、なぜか自分を振り返り、考えさせられるという本書での河合隼雄の語り口が
よい臨床、よいカウンセリングというものを体現しているのかもしれません。