『河合隼雄自伝 ー未来への記憶ー』が新潮文庫より復刊されることになりました。
(6月1日発刊、Amazonでは5月28日~)
これは、岩波新書から上下巻で刊行された『未来への記憶―自伝の試み』を改題したもので、
「未来への記憶のつづき」(『私が語り伝えたかったこと』河出書房新社所収)が増補されています。
伝記というと、なんとなく「偉い人の立派な話」とか、「苦労しながらも成功する話」とか・・・
いずれにせよ、何かよくできたお話というぼんやりとしたイメージがありますが、
この「自伝」は、そうした「よくできた」ものというよりむしろ、
子ども時代、寝る前にきいたおはなし、といったような印象を受けます。
河合隼雄がユニークな兄たちとどのような子ども時代を過ごし、
戦争をくぐりぬけてきたのか、
河合隼雄の個人史としてみても興味深く、
どのような人と知り合い、どのように臨床心理学の道に入っていったのか、と
ひとつの学問が発展していく道筋としてみても貴重な資料といえるかもしれません。
しかし、それ以上に、河合隼雄がいかに出会った人や物、勉強や音楽、さまざまなイメージにわくわくしていたのか、
人との出会いに笑って泣いて、その裏で劣等感を感じたりしていたのか、
読んでいると、こちらもふふふと笑ったり、人のあたたかさにじーんとしたり、心がしくしくいたんだり、
おはなし上手の河合隼雄にぐいぐいとひっぱられ
まるで自分が高校の先生になったり、アメリカ留学にいったような気にさえなってしまいます。
そのような意味では、この本は「自伝」という形をとりつつも、
ひとつの「物語」といった方がよいのかもしれません。
代表理事・河合俊雄の解説もついています。