2023年3月12日(日)15時より、京都大学百周年記念ホールにて、

当財団代表理事を務める河合俊雄京都大学教授の最終講義が行われました。

百周年記念ホールは500席が満席で、

河合教授のゆかりの方々があちこちで、

久しぶりの再会を喜ぶ姿が見られました。

 

 

総合司会の内田由紀子先生(京都大学人と社会の未来研究院教授)による

温かくも流れるような挨拶と紹介から、最終講義が始まりました。

 

 

まず広井良典先生(同人と社会の未来研究院教授)により、

開会の辞並びに河合教授のご経歴を、スクリーンに映し出しつつ紹介。

 

河合教授は、1995年に京都大学教育学部に助教授として着任。

以来、28年にわたって京都大学において教育・研究に取り組んできました。

 

主な研究業績は、ユング心理学、

ユング派心理療法の現代日本における理論的展開として貫かれています。

さらに、心理学やアカデミックな世界の中だけでなく、

これまでも当財団からもご紹介してきたように、

ユング心理学の視点から村上春樹の作品や

ミヒャエル・エンデの『モモ』などの物語を読み解いた著作や講座を通じて、

幅広い人々に現代日本社会の心理的課題について、

考える視点とヒントを提示することにも積極的に取り組んできました。

現代日本社会の心理的課題に光を当てる研究としては、

発達障害や心身症などへの心理療法的アプローチの研究プロジェクトを進め、

多くの研究者とともに幾つもの著書・編著に

その成果や今後の展望を示す仕事に尽力してきたことなど、

これまでの長年の成果を紹介していただきました。

 

<経歴・業績紹介>の動画はこちらから

 

 

続いて、河合教授による最終講義です。

講義では、これまでの心理療法のパラダイムは、

クライエントの主体が前提であったが、

発達障害など現代の主体の欠如や弱さが問題となるクライエントの心理療法では、

主体の発生というプロセスが重要となること、

一見教育や訓練によってできていることも、

一度壊れて主体が立ち上がってくる必要があること。

それらのことが地道な実証研究によって、

心理療法の可能性・有効性が示され、裏支えを得ていることがわかってきました。

 

圧巻は、河合教授が40年前に担当した、

小学2年生男子とのプレイセラピーの事例紹介でした。

各回でどんな遊びや表現が行われたか、

当時の自分がセラピストとしてどのように考えたか、

そして40年経った今振り返ると新たに何が見えてくるかを

丁寧にコメントしながら、経過を紹介します。

 

事例の経過の中で、

河合教授が当時見たクライエントが出てくる夢も紹介され、

セラピストが意識的、

無意識的にもクライエントとどのように向き合っていたのか、

会場で聞いている参加者は、

まるで今その世界に引き込まれていくようなリアリティのある体験をしたように思います。

 

40年前の、ある一人の問題を抱えた子どもの、

ある一つのプレイセラピー、であることを超えて、

集合的な、現代にも通じる日本社会の抱えるこころの課題がそこにあり、

現代の心理療法を行う専門家が個々に求められる主体性や覚悟をも

問われているように感じられました。

 

<最終講義>の動画はこちらから

 

講義に続いて、

元京都大学総長・総合地球環境学研究所所長の山極壽一先生と、

京都大学大学院教育学研究科教授の田中康裕先生を交えての

ディスカッションが行われました。

(山極先生は、当財団の河合隼雄学芸賞選考委員であり、田中先生は、当財団理事です。)

 

山極先生からは、

ご専門のゴリラ研究からのインスピレーションとして、

言語以前に通じる世界とその境界のこと、

普遍的な本質を捕まえることと社会との関係などの視点についてなど、

これからのテーマとなりうることを投げかけられました。

 

田中先生からは、セラピストの2つの夢について示唆に富むコメントが話されました。

事例や治療関係についての理解がより深まるとともに、

主体の誕生の普遍的で実感を伴うイメージとして、腹に落ちるものでありました。

 

ディスカッションの最後に、

心理療法は一対一の狭い守られた空間の出来事であることに意義がある一方で、

起こったことが共有されることが重要であること。

個人の救済や個人のウェルビーイングを超えて、

普遍的な本質をとらえる研究や実践が

広く続けられていくことの必要性について再確認することとなりました。

 

<ディスカッション>の動画はこちらから

 

河合俊雄教授の京都大学退職を記念し、

創元社より『夢とこころの古層』の出版も紹介されました。

夢のリアリティの次元、日本のこころの古層の特徴を明らかにすべく、

河合教授のこれまでの探究と心理療法実践のエッセンスが詰まった待望の著書です。

最終講義のあと、退職記念パーティーも開かれました。

大学・大学院で、あるいは全国で指導してきた心理臨床の教え子、

さまざまな領域で関係を築き深めてきた各界の方々、

ご同僚、ご友人、ご家族などとともに、

歓談や交流を深め、河合教授のこれまでのご貢献やご指導への感謝や

節目を迎えたことへのお祝いの言葉と笑いに溢れる、

温かく豊かな時間を過ごす会となりました。

 

退職後も、個人のこころの問題と

他者や社会や文化との関係についての探究はまだまだ続きます。

河合教授のこれからの「こころの未来」に関わる活動にますます期待が高まります。

 

遠方からも多くの方々に最終講義にご出席いただきましたこと、

また河合教授の退職にあたり多くの祝意をいただきましたこと、心より感謝申し上げます。

 

<動画配信>

財団youtubeページにて、今回の動画を公開しています。

<経歴・業績紹介>の動画はこちらから

<最終講義>の動画はこちらから

<ディスカッション>の動画はこちらから