去る10月5日(木)、東京・代官山 蔦屋書店にて
『別冊太陽 河合隼雄 たましいに向き合う』 (平凡社)刊行記念/
河合隼雄財団共催 河合俊雄代表理事×鏡リュウジさん・トークイベント
「いま、河合隼雄を読むこと」が会場とオンラインのハイブリッドで行われ、
たいへん多くの来場者・視聴者を迎えて和やかに行われました。
『別冊太陽 河合隼雄』は、河合俊雄代表理事による編集で、
2023年7月に発行されました。
本書にも文章を寄せられている
鏡リュウジさん(占星術研究家・翻訳家)は、
これまでもさまざまなところで河合隼雄の著書を紹介されています。
《多くの写真が語るもの》
まず二人の話題は、本書が河合隼雄についてのたくさんの書籍の中で、
初めてのヴィジュアル・ブックだということについてから。
表紙の、河合先生が深く考え込んでいるこんな表情は初めてみた、
という鏡さん。この写真だけでも価値がある本だと感じたと。
一方、河合俊雄代表理事によれば、
心理臨床の事例検討会などでよく見た表情だったと言います。
あまり一般の場面では見せない、臨床家・河合隼雄ならでは姿なのかもしれません。
さらに、膨大な著作群の文章の中から、
選り抜きの文章の引用が素晴らしく、
写真とマッチしてよりこころに響いてくるものとなっていると、
いくつかの印象的な文章をとりあげられました。
それらの文章は、河合隼雄そのものを表していると、
その言葉を参加者とともに味わいました。
《偶然のアレンジ、受動性と自分のリアリティを大事に》
鏡さんが本書で印象的だったこととして、
河合隼雄のユング研究所の最終試験での出来事について(p52-53)のエピソード、
自己(Self)の象徴は何か?という質問に対して、
一般的な答えとは異なり、「Everything(神羅万象すべて)」と答えて、
試験官を怒らせ、真剣勝負の対決の様相を呈したという出来事について話されました。
河合俊雄代表理事によれば、この出来事は、
河合隼雄の生き方と自分のこころのリアリティに深く関わっているのだと言います。
要領がよくて運がいい河合隼雄には多くの「おもいがけないこと」、
偶然のことがたくさん起こり、
それらの出来事に受動的でありながらも、
最後の最後には自分のリアリティを大事にし、
そこに個が立ち上がってくる。
日本人にとっての「わたし」とはどういうことかがここに表れていたのではないか。
その後の河合隼雄の日本の昔話研究なども、
この受動的でありながら最後の最後に個が立ち上がる特徴を持っていることなど、
話が深まっていきます。
《自然における、おのずから、と、みずからの二つの側面》
さらに鏡さんが、
こころの自律性について『宗教と科学の接点』(岩波現代文庫)の
自然についての河合隼雄の論考を取り上げ、
こころの受動性と能動性の二つの要素が、
さまざまな著作に貫かれていることと指摘。
「いま、河合隼雄を読むこと」という今回のイベントのテーマに即すと、
現代思想の関心はこの側面に向かっているのではないか?
今後のテーマになっていくのではないか。その意味で、
本書はある種の区切りで、ここから新しい展開が期待されること、
若い世代が河合隼雄の思想をどう読むのかが興味深い、と語られました。
こころは生きものなので、
時代によって変化するものだが、河合隼雄は意外と、
今起きていることにフィットしていて、
そういう点で普遍性があり、読む価値があり続けるのではないか、と。
さらには、京都大学の最終講義(『こころの最終講義』新潮文庫)で
取り上げれらたテーマ「共時性/コンステレーション」であったこと、
超合理主義者であった河合隼雄が、
非合理的なものに強く反発してきたにも関わらず、
体験を通じて合理性では説明できないことと深く向き合おうとしたことや、
象徴体系を超えるものについての関心、
日本人のストラクチャーの曖昧な特性についてなど、
マンダラ、京都の町並み、箱庭療法などさまざまなことに話題が及びながら、
河合隼雄が迫ろうとした日本の心性について、自由に考えを深め、開かれていく時間でした。
最後の質問タイムでは、
『泣き虫ハァちゃん』(新潮文庫)のこと、
夢や日本神話、不登校・いじめ問題についてなど、
会場やオンラインの参加者からの多彩な質問が活発に行われ、
一つ一つに丁寧に答えるなど、和やかでじっくりと考える時間となりました。
特に、最後は、限ること(壁にぶつかること)と開くこと、
そういう壁を面白がることができるかどうか、など、
印象的なキーワードも登場し、参加者はそれぞれ、
さまざまな考える鍵を手に入れることができたのではないでしょうか。
今回のトークイベントを機に、
『別冊太陽 河合隼雄』が多くの人に手に取っていただく機会になることを、
さらに河合隼雄の思索の軌跡が改めて読み解きなおされる契機になることを願ってやみません。
今回もたくさんの皆様にご来場・ご視聴いただきまして、ありがとうございました。