河合隼雄物語賞・学芸賞は、毎年『考える人』誌上で発表されています。
選考委員を代表し、今年は宮部みゆきさん(物語賞)、岩宮恵子さん(学芸賞)の選評と
受賞者お二人の受賞のことばが掲載されていますが、
ここでは、「受賞のことば」を少しだけご紹介します。
中島京子さんの受賞のことば「物語にたすけられて」では、次のように述べられています。
「歴史小説は年号と風景描写で始まるものだという固定観念に縛られていて、
その文体で自分が一篇の小説を書き切れるとは思えなかったのです」
「書きあぐねた私を救ってくれたのは、まさに「物語」でした」
「フィクションこそが伝える真実の存在を、伝説と昔話に教えてもらいながら(中略)
私の初めての歴史小説であり、初めてのファンタジーでもある作品が誕生しました」
(本文より引用)
大澤真幸さんの受賞のことば「探偵小説の探偵小説のように」では、
「とりわけ私にとって嬉しいのは、この賞には他の学芸賞にはないユニークな点があるからだ。(中略)
河合隼雄学芸賞の場合、こうした一般的な基準に加えて、物語性という観点が入っている」
と述べられています。
そして、「真理は、常識を越える真理は、必ず〈物語〉の顔をしている」
「寓話のようなかたちでしか分節できない真理の次元がある」
「探求は、物語のように展開していかなければ、深化しない」
とも述べられています。
ご覧いただいてわかるように、お二方の受賞のことばでは、
共に「物語」のもつ力について触れられています。
河合隼雄はまさに、物語が事実よりも深く真実を伝えること 、
日常の意識では到達できないような深みへと我々をつれていってくれるその力をこそ
大切なものと考えていたのだと思われます。
河合隼雄の名を冠した賞にふさわしい二作品への授賞は
第3回目にして河合隼雄賞が光を当てようとするものをはっきりと示してくれたように思います。